【医療経営士コラム】日本医療業界の変革と医師の業務の変容について<最終回>(2015.03.13)

最終更新日:2018.06.21
【医療経営士コラム】日本医療業界の変革と医師の業務の変容について<最終回>(2015.03.13)

これまで「日本医療業界の変革と医師の業務の変容について」を3回にわたって連載して参りました。

(連載記事はこちらからご覧ください。)

今回は、2025年以降の超高齢化社会に向けて“住み慣れた地域での持続的な生活の実現”を目的とした「地域包括ケアシステム」について、その成り立ちとポイント及びその中での医療の関わりについてお話して参ります。

※これまでの「日本医療業界の変革と医師の業務の変容について」の連載記事はこちらからご覧ください。

1.地域包括ケアシステムの定義と成り立ち

「地域包括ケアシステム」は、ニーズに応じた住宅提供を前提に、生活上の安全・安心・健康を確保するため、医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めた生活支援サービスが日常生活の場で適切に提供する地域体制を目指すシステムであり、その圏域は「おおむね30分以内に駆けつけられる圏域」として定義されています。

「地域包括ケアシステム」は、2012年介護保険改正時に「地域包括ケアシステムの実現」がキーワードとして登場しました。その後、2014年の介護保険法第5条において国及び地方公共団体の責務として地域包括ケアシステム推進の条文が加わり、法的根拠が与えられています。また、1回目でお話した2014年6月に制定の「医療介護総合確保推進法」にも地域包括ケアシステムの推進が組み込まれています。

2.地域包括ケアシステムの考え方のポイント

「地域包括ケアシステム」の考え方には、大きく3つのポイントがあります。

① 5つの構成要素があり、登場人物が多種多様である事

地域包括ケアシステム「医療」「住まい」「介護」「生活支援」「予防」の5つを対処すべき構成要素としているため、ステークホルダーやプレイヤーは、本人を初め、家族、医療機関介護施設、ボランティア、民間業者、自治体など多岐にわたって存在します。
これら様々な参加者が、高齢者を中心とした地域住民に対し重層的に支援する体制の構築を描いています。そして各分野を横断的に橋渡しする役割を、市町村が主体となって設置する地域包括支援センターが担う事になっています。当センターの実際の運営は、約70%が地域の法人などに民間委託されていますが、希望してきた高齢者や家族に対する介護などの事業所紹介が、運営受託法人へ優先される事例もみられ、利用者・関係事業者へ公平な対応がなされていない問題も生じているようです。
よって、数多くのステークホルダーやプレイヤーに対して、如何に公平性を維持しながら支援サービスを構築するかが1つのポイントになると思われます。

② 費用負担の考え方
 様々な支援やサービスを誰が費用負担するかは、「自助」「互助」「共助」「公助」という視点で考えられています。

「自助」・・使用者の負担
「互助」・・ボランティアや地域
「共助」・・保険負担
「公助」・・税金による負担

医療は「共助」と「公助」が大きな比率を占めますが、少子高齢化や財政の状況を考えると、地域包括ケアシステムにおいては「共助」「公助」に大きく期待する事は難しく、結果、「自助」「互助」の比率を高く見て構築せざるを得ないのが現実です。
また、「自助」「互助」の比率も、例えば地方では民間サービス(「自助」)を受けるのに困難であったり、逆に都心部では近所の助け合い(「互助」)は難しかったりと、地域によって状況は違うため、その地域の特性に合わせて何を選択し、誰がどのように費用負担をする仕組みにするかが2つ目のポイントになります。

③ 日常生活圏域で作られる事
地域包括ケアシステムは、「おおむね30分圏域」を目安とした生活圏で構築しますが、各生活圏域での高齢化の進展状況には大きな地域差があります。例えば大都市部では全人口は横ばいで75歳以上の人口が増加していますが、町村部では75歳以上の人口の増加は緩やかですが全体の人口は減少しています。よって、その圏域でサービスを受ける高齢者の人数や年齢、それを支援する側の人の構成によって必要な地域のビジョンは変わるため、地域を俯瞰的に理解し、その上で何を支援策として優先するかが3つ目のポイントになります。

これらの3つのポイントから各地域を理解し、地域にあった体制が構築出来るかが成功するカギになると思われます。地域の設計次第では、素晴らしく成功する地域があったり、逆に全く機能しない地域があったりと、大きな地域格差が生まれる可能性もあります。

3.地域包括ケアシステムで医療の果たすべき役割

地域包括ケアシステムの構築において、在宅医療の存在は欠かせないものであります。
また、在宅医療は、システム構築上の必要性だけでなく、平成21年度の内閣府調査で「自宅で人生の最期を迎えたい」と希望する人が全体の54.6%に上がったにも関わらず87%が自宅以外で死亡している現状からも、普及が強く求められている事がわかります。

しかし、残念ながら、現在の在宅医療に携わる必要な医師数は、理想にはほど遠い状況です。厚労省の調査によると、在宅医療に関わる医師は約4万5千人と算出されていますが、2025年時点で在宅医療に携わる必要医師数は約12万人と言われており、相当の人数が増えないと、描いた地域包括ケアシステムは成りたたない状況です。

また、地域包括ケアシステムで活躍する医師像は、これまでの医師像とは少し違うかもしれません。

地域包括ケアシステムは、住民が描く地域のビジョン実現のための地域活動でもあり、そこにはリーダシップを取る人材が必要となります。その中で、重要なポジションである医師には、他よりもリーダシップを発揮する事が求められるケースが多くなると思われます。
また、ケアマネージャーなどの他分野の打合せや医療に関する講習会の開催など、医療スキルだけでなくコミュニュケーションスキルも求められると思われます。

4.地域包括ケアシステムの現状と懸念点

地域包括ケアシステムの構築は、各地域で既に始まっていますが、各地域の取りかかりは様々です。空き家を利用した共同住宅の確保から始めた地域もあれば、医療と介護の地域連携システムを推進する地域、自立をテーマに仕組み作りをしている地域など、その地域で何が一番必要なのかが模索されています。

地域包括システムは、極端に言えば地域ごとに正解が異なるため、複数分野に渡るステークホルダーの全てが満足するシステムを構築する事はそう簡単ではないと思われます。

費用負担上の不満、不正行為が行われないよう如何にするか、そして、多分野間での連携など懸念材料は多々あります。

そして、在宅医療を支える医師や介護を行う人材は確保できるのか?という問題です。

前述した通り、在宅医療で必要とする医師数はかなり足りない状況ですが、在宅医療に進む先生方は、ここ毎年増加傾向にありました。
20代の若い先生方から急性期病院で定年を迎える先生など、年代、性別を問わず増加していましたが、2014年の診療報酬改定以降は、この流れが少し鈍化した感があります。

2014年診療報酬改定で行われた高専賃などに対する在宅診療のマイナス改定は、在宅医療へ向かう医師の流れに水を差す事になり、非常に残念であると思います。
そのマイナス改定をされた理由は、高齢者用施設で起こっていたキックバックや過剰な診療をする行為への懸念などが理由のようですが、そういった不正行為自体が、心ある医師を在宅診療から遠ざける事になるという事を、事業者は肝に銘じて欲しいと思います。

地域包括ケアシステムという考え方は、財政的に致し方ない中では理想的な考えではあろうと思います。しかし、前述したように超えるべきハードルは様々あって、「本当に大丈夫?」と思えてしまいます。

医療が陥っていると言われる「囚人のジレンマ」に、もし同じように地域包括ケアシステムの参加者が陥れば、理想の実現は難しいと思えます。
如何に参加者全員が、地域全体の利益を優先し、協調して取り組めるかがキーと思えます。

非常に長い連載となってしまいました。
これから医師を取り巻く環境が否応なく変化する時代の中で、先生方が最良の選択をするために、少しでもお役に立てれば幸いです。

先生方が自分に合った最良の選択をし、そしてご活躍する事を心より願っております。

執筆者:鈴木 友紀夫 株式会社メディカル・ステージ取締役 2級医療経営士