「患者中心の医療」に隠された問題点~医師の苦悩とは

最終更新日:2017.09.12
「患者中心の医療」に隠された問題点~医師の苦悩とは

 Patient-Centered Medicine ――「患者中心の医療」。

この概念が提唱される前まで、医療は医学的・科学的な探求ばかりが優先され、患者への理解や共感が伴っていませんでした。

「患者中心の医療」という考え方が登場したことで、医療の体制はゆっくりと変化を遂げていきます。

ここでは、患者中心の医療についての具体的な内容と付随する問題点をクローズアップし、高齢化社会との繋がりや患者中心の医療を実現するための医師の働き方などを考えます。

患者中心の医療とは一体何か

「患者中心の医療」は、1980年代にカナダのウェスタンオンタリオ大学家庭医療学講座のグループによって開発されたもので、同大学だけでなく北米やヨーロッパ、オセアニア、東南アジアの各国で医学部の教育カリキュラムや研究に導入されています。

患者中心の医療とは、最新の医療を提供するだけでなく、患者が抱える事情や背景を考慮し、それぞれに合ったオーダーメイドのような検査や治療計画を盛り込んで実践しながら、医師と患者の双方が納得のいく治療を構築する臨床技法です。

患者中心の医療は、具体的には6つの項目と共に進めていきます。

 

Exploring both disease and illness experience

「疾患と病気の両方の経験を探る」
まずは、診断を下すために根拠のあるデータに基づいて症状などを探り(EBM)、患者が語る病に関する内容を受け止め、よい関係を築く(NBM)。

 

Understanding the whole person

「患者だけでなく取り巻く地域や家庭も理解する」
患者が語る体験や状況から推測し、生活環境や職場の立ち位置を考え、人生におけるステージの観点で捉える。

 

Finding Common Ground

「医師と患者の共通の基盤を見出す」
患者が抱える問題をいかに解決するか。治療の計画や目標、医師と患者の役割など共通の基盤になるものを探る。この項目が「患者中心の医療」の核になる。

 

Incorporating prevention and health promotion

「病気の予防と健康の増進を盛り込む」
定期的な診察の際には、他の病気予防の意識を高め、健康的な生活を送れるようアドバイスを行う。

 

Enhancing the patient-physician relationship

「患者と医師の関係を強くする」
じっくりと時間をかけて、どの患者にも公平で有益な関係を築けば基盤が強固になり、信頼度が高まる。

 

Being realistic

「現実的な内容であること」
すべての患者に最適な医療を提供できるよう、担当の医師の勤務体制や必要な物資の供給などをよく検討する。

 

患者中心の医療については、Moira Stewart(モイラ・スチュワート)氏による書籍「患者中心の医療」(翻訳:山本 和利)に、より詳しく内容が記されています。

これまで医師を養成する教育機関は学位取得という目標だけに着目し、機械的に知識や技術を教えるだけの場所にすぎず、医療の真髄を学ぶには程遠い状況にありました。

著書ではこのような教育に警鐘を鳴らし、医療を学ぶ若い人たちに向けた指導方法も提言されています。

患者中心の医療の概念が注目されてからは、考えに基づいた研究も各種行われており、患者の満足だけでなく病気の改善や医療機関に対する影響などの結果も報告されています。

患者中心の医療は、家庭医が目指す理想の医療の形と言えるでしょう。患者と密接な関係にある家庭医が患者中心の医療を提供すれば、患者はより充実した生活を送ることが期待できます。

しかし、患者中心の医療は理想論で、実際の現場では思うように事が運びません。患者中心の医療の問題点を次の項目で見て行きましょう。

 

患者中心の医療に残された課題とは

患者中心の医療が実現すれば、患者は満足し、医師も充実した仕事ができ、より暮らしやすい世の中になるでしょう。

しかし、実際の医療現場では医師不足が後を絶たず、医師は激務を強いられています。患者1人1人にゆっくり向き合いたいと思っても人手不足で時間が足りず、事務的にこなすのが精一杯という状況です。

無理に患者中心の医療を導入すれば、医師の負担が増すばかりで、双方の満足という概念からは程遠いものになってしまいます。患者中心の医療をやりたくてもできない現実が医師を苦しめています。

患者中心の医療を導入するには、医療機関側の具体的な対応や協力はもちろん、社会全体の理解が必須と言えるでしょう。

一方で、患者中心の医療を取り入れている現場では、医師と患者の間で感じ方に温度差があることがわかっています。

平成17年(2005年)の医療フォーラムにおいて、名古屋大学・多摩大学・明治大学の教授が共同研究した結果が報告されました。

医療従事者と医療消費者のそれぞれ1,000名を超える人数にアンケートを行ったところ、「患者中心の医療を実践している」という医師に対し、医療消費者側は「まだ充分ではない」と答え、双方の認識の違いが浮き彫りになっています。

また、医師との会話の質は患者の満足度に関係しており、改めて信頼関係を構築するための重要な手段であることがわかりました。

患者は医師の説明のスキルを求めているのではなく、いかに患者の意思を尊重してくれるかという点を重視しています。

さらに、患者の満足度が高まる要因としては、医師と患者の双方で「説明」が最も重要と考えていますが、次いで医師は「検査」を、患者は「待ち時間」「薬」を重視しているという結果が出ており、ここでも認識の違いが明らかになっています。

(参照元サイト:製薬協 医療消費者と医師とのコミュニケーション

 

高齢化社会と患者中心の医療の関係

次に、高齢化社会と患者中心の医療について考えてみましょう。

「2025年問題」でも取り上げられているように、今後は75歳以上の高齢者が激増し、医療の現場でも様々な問題が浮上すると考えられます。

診療報酬の改定により、一部の病院業務の効率化が期待できますが、在宅医療への移行が進んで家庭医の重要度が増すと予想されます。

多くの患者を診るための医師の確保は必須で、医療機関側は勤務体制の見直しも迫られるでしょう。また、より質の高い医療を目指すには、患者中心の医療の実現も視野に入れなければなりません。

今後は、それぞれの病院の役割と重要性を精査し、連携を取りながらスムーズな医療を実現できるよう体制を整える必要があります。

地域支援の充実も求められ、病気の予防から治療まで、それぞれの段階に応じたサービスの提供が患者中心の医療に繋がります。

また、高齢化社会では、「総合診療医」の存在が地域医療の核になるという意見もあります。

複数の疾患を抱える高齢者は、それぞれの専門科の診察を受けるよりも多様な知識と診察の能力を持つ総合診療医によって診断され、的確な指示を受ける方が地域との柔軟な連携ができると考えられます。

限られた予算と人員の中、患者中心の医療の実現に向けて、いかに導いて行くかが今後の日本の課題になるでしょう。

 

「患者中心の医療」をするためには医師の働き方を改善すべき

ここまで、患者中心の医療について考えてきました。高齢化を迎えた日本は、的確なタイミングで患者中心の医療をスムーズに受けられるよう、変化していくことが求められます。

そのためには、まず医師の働き方を見直す必要性があります。そもそも、医師個人が自分に合った働きやすい職場でやりがいを見出す余裕がなければ、患者中心の医療は実現できません。

この機会に、医師としての働き方についてゆっくり考えてみてはいかがでしょうか。

高齢者を含めた国民の健康を見守り、理想的な「患者中心の医療」の提供に貢献する医師の皆さんは、今後の日本に必要不可欠な存在です。

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