「精神保健指定医の取得」を目指した転職の落とし穴

最終更新日:2018.05.18
「精神保健指定医の取得」を目指した転職の落とし穴

「精神保健指定医」不正取得のニュースが流れたのは、記憶に新しいところ。不正取得が疑われた医師と関与した指導医は100人前後といわれ、その中には相模原市の知的障害者施設事件で逮捕された容疑者の強制入院措置に関わった医師がいたため、話題になりました。 

そもそも「精神保健指定医」ってなに?

「精神保健指定医」とはどういった資格なのか改めて一度確認してみましょう。

精神保健福祉法18条にて精神保健指定医について明記されていましたので、下記に記します。

精神科医療においては、本人の意思によらない入院や、一定の行動制限を行うことがあるため、これらの業務を行う医師は、患者の人権に十分配慮した医療を行うに必要な知識を備えている必要がある。そのため、一定の精神科実務経験を有し、法律等に関する研修を終了した医師のうちから、厚生労働大臣が「精神保健指定医」を指定し、これらの業務を行わせることとしたものである。

精神保健福祉法第18条より引用)

精神医療の現場では、患者の症状によって行動制限や措置入院といった対応が必要な場面があります。

そんな時、患者の人権に配慮しつつ、強制力のある判断ができる存在として、精神保健指定医の制度が作られました。

有資格者だけが医療行為を行える「専門医制度」とは違い、「精神保健指定医」は厚生労働省が指定する国家資格です。

入院設備のある精神科病院では、常勤の精神保健指定医が在籍する施設が多くあるようです。

精神保健指定医として働く医師の総数は精神科病院・精神科診療所併せて、2010年時点で13,308人となっており、年々増加傾向にあります。

気になる精神保健指定医の資格取得条件については後ほど説明いたします。

(参考元サイト:国立精神・神経医療研究センター「改革ビジョン研究年次報告」より、精神保健指定医の人数) 

 

精神保健指定医取得のメリット

精神保健指定医を取得することで医師にどのようなメリットがあるでしょうか。

先に申し上げた通り、精神保健指定医は、措置入院の判断・措置入院解除の判断や、医療保護入院といった強制力のある判断をすることができます。

では、収入面ではどうでしょうか。

資格を保持した医師が診療を行うと診療報酬が加算されるため、資格のない精神科医が診察するときの診療費に比べて2割弱点数が高くなります。

他にも、指定医による診察・治療に関して診療報酬の加算が細かく定められています。

ゆえに医療機関としては指定医資格保持者を募集しているケースもあり、そのような医療機関への転職で年収UPが期待できるかもしれません。

以上から、年収を上げたい医師の方は、まず資格取得を目指すのも一つの方法かもしれません。

また指定医資格の取得は、医師としてキャリア形成にも役立ちます。

医師が転職する際、精神保健指定医資格があれば、規模の大きい医療機関や、最先端の医療技術を保持しているなど、現在の勤務先医療機関より条件の良い医療機関へ転職が可能になるでしょう。

とはいえ、指定医資格の取得には決して簡単ではない条件が設けられており、それらを全てクリアしなければ取得することはできません。

次に、精神保健指定医取得までの流れと手順、具体的な条件などを見てみましょう。

(参考元サイト:厚生労働省「精神科救急・精神保健指定医について」

 

精神保健指定医取得までの流れ・手順

精神保健指定医の受験資格は、

  • 5年以上の診断・治療の実務経験があること
  • 3年以上の精神科実務経験がある
  • 厚生労働大臣から登録を受けた公益社団法人・日本精神科病院協会で、決められた研修を修了する

といった3つの条件が必要となっています。その上で厚生労働大臣から認定された施設へ新規申請を行います。

次に申請に必要なものを以下に示します。

  • 精神保健指定医指定申請書類
  • 履歴書
  • 実務経験証明書
  • 医師免許の写し
  • 精神科での実務経験が分かるケースレポートを8通提出
  • 証明写真
  • 常時勤務証明書
  • (参考元サイト:公益社団法人・日本精神科病院協会

上記7点を揃え、厚生労働省によって指定された医療機関へ提出します。

ケースレポート・申請書の様式は、厚生労働大臣に認定された医療機関・施設などのホームページからダウンロードすることができます。

ケースレポ―トでは、精神保健指定医に必要とされる医学的知識や技術力が判断されますが、その内容は次の、統合失調症、躁うつ病、中毒性精神障害、器質性精神障害、老年期認知症、児童・思春期精神障害の症例のうち、実際に経験したことのある症例について作成することになります。

また治療・診断には、常勤の精神保健指定医の指導医の下、医師本人が1週間に4日以上診療に関わった症例でなければいけないと定められています。

もちろん、他の医師が診療にあたった症例を元にレポート作成することは禁止されています。

指定医の取得後も、5年ごとに定められた研修を受けた上での更新が必要です。

この制度が設けられた背景として、過去に精神保健指定医を受験する医師ではなく、他の医師がまとめた症例をケースレポートとして不正に使用し、資格をはく奪されたという事件がありました。

これを受けて厚生労働省では新規申請者の資格審査の際、口頭試験を採用するなど、5年ごとの更新のみではなく、さらなる条件の追加をするべきとの意見が出ているようです。

まだ決定には至っていませんが、今後、精神保健指定医取得のためのハードルが上がることは十分に考えられるでしょう。

(参考元サイト:厚生労働省・精神保健指定医の指定等に関する参考資料日本医事新報社

 

不正取得の背景には、症例不足がある?!

不正取得が疑われたのは、厚生労働省が禁じている「複数の医師が、同じ患者の同一期間の症例レポートを提出」していたケース。 

この不正取得の背景には、精神保健指定医の資格申請に必要な症例が集まりにくいという事情が見え隠れします。 

 

一見、選択肢には困らない 

「精神保健指定医の取得を目指したい」 

私たちエムステージのエージェントの元には、精神科の医師からはもちろん、内科などから転科を考える医師からも、こうした相談が寄せられます。 

実際、精神科病院の求人を見ると「精神保健指定医の取得可能」と謳っている求人が多いので、一見選択肢が豊富なように見え、そこに危機感を覚える先生は少ないようです。 

 

「精神保健指定医取得可能」といわれていても… 

精神保健指定医の資格は、専門医と違って認定施設などへ行く必要はありません。 

計8例のケースレポートを作成して提出することで指定医資格認定試験を受けることができるため、指導する指定医が在籍している、措置入院が可能であるなど、ある程度の要件を満たせば「精神保健指定医取得可能」と謳うことができます。 

しかし、実はそこに大きな落とし穴が潜んでいるのです。 

 

症例のタイプに注意

認定試験を受けるために必要な8症例のうち、「児童・思春期精神障害」と「器質性精神障害」の症例に出会うのは難しいといわれています。「指定医取得が可能」という病院でも、この症例は年間数例しかないというケースも多く、なかなか症例が揃わない現実があるようです。 

実際、精神保健指定医取得を目指して転職したのに、上記症例が揃わないため、もう一度転職したいと弊社に登録される先生も多くいらっしゃいます。 

 指定医を目指す常勤医師の人数に注意

たとえ症例の数や種類がそれなりであったとしても、在籍している医師の多くが精神保健指定医を目指している場合、先に入職している医師が担当してしまい自分が担当できるまで時間がかかる…ということもあります。 

精神保健指定医の取得を目指す先生は、すぐにもう一度転職活動をする羽目にならないよう、個別の症例数と在籍医師の内訳を確認しておくことが大切です。

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